末姫疾走 ~ the sweet little mermaid ~

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「知っての通り、ここいらに比べてあっちは滅法暑い。 そのせいかどうかは知らないが、やつらの寿命はずいぶんと短いんだよ。おまえたちに比べて」  そう言うと、魔女は濁った両の目を鍋に近づけ、ぶくぶくと泡立つ中身をゆっくりかき混ぜました。 「おまけにやつらは無知で無鉄砲。好奇心に任せて、時にとんでもないことをしでかす……いや、無知だからこそ無鉄砲なのかもしれないねえ。 おまえも聞いたことがあるだろう?  遠い東の海の島国で、おまえの仲間の死体をみつけたあいつらが、こともあろうにその肉を、若い女に食わせたって話を。 不老不死の薬だなどと言いおって。 知らずに食ったその娘は、確かに周りのやつらの何倍も長生きしたそうさ。 老いもせず、化け物扱いされながらね」  くっくと含み笑いしながら、魔女はまた鍋をかき混ぜます。 「おまえが夢中になってる、あの王子だってそうだよ。 若いったって、残りの寿命はおまえに比べりゃほんのわずか。 こっちの感覚じゃ、あっという間さ。 それに、嵐の海に船から落っこちるだなんて、元々あまり運のない男のようだからねえ。 残された時間なんて、下手すりゃほんの五分程度ってとこかもしれない。今のおまえの体感ではね。 ――そして、おまえ自身もそうなるんだよ。この薬を飲んだら」  魔女は少女の顔をのぞきこむと、奇妙な形をした長い爪を、その鼻先に突きつけました。 「嬢ちゃんや。おまえ、覚悟はあるのかい?  おまえがあっちで老いぼれて死ぬ頃、こっちでおまえの姉さんたちは、今とおんなじ姿形で楽しく遊んで暮らしてるんだよ。  それだって、おまえが老いるほど長く生きられたらの話だけどね」
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