酔いのピンチヒッター ……1

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酔いのピンチヒッター ……1

午後5時過ぎに、店を乗っ取られた呈でシャッターを下ろしたアタシは、春めいてどこか弛緩した空気が漂う住宅街を歩き始めた。 今から45分ぐらい前に店へ現れたリョウ兄さんは、その時にはもう随分酔っていて、右手に提げたレジ袋は缶ハイボールやら、缶ビール、つまみの柿の種なんかで溢れていた。 その時アタシは、ネット購入者達への梱包作業に精を出していたのだけど、リョウ兄さんのそんな様子を見た途端、今日がローンの支払日だったのに気付いたし、兄さんのやさぐれムードから判断するにつけ、今日の支払いが、ルミ姉さんにとってはかなりヘビーなモノに違いなく、カウンター裏の丸椅子でハイボール片手にこっくりを始めた兄さんが、目覚めた後に醸し出すダークな沈黙を警戒して、店を後にした次第だった。 で、先ずは出入りの宅配業者へ梱包済みの商品を持ち込んで手続きを済ませた。 で……、あとはもうすることはなかった。ま、強いて言えば、せいぜいウォークマンのイヤホンを耳へ挿れ、何を聴くか選ぶぐらい。で、そいつも終わっちゃった。 『ザ・ローリング・ストーンズ/レット・イット・ブリード』 1曲目〝ギミー・シェルター〟が流れ始めた。さて、どーすんだ、アタシ……。 ったく! マジ、ギミー・シェルターだ……。 アタシは今、もぐりの映画館フィルム・モアのある吉川ビルの2階、劇場の隣に位置するラウンジ代わりの部屋の奥にあるトイレのなかだった。行き先として、兄さん達の拠点を選ぶのは、飛んで火に入る夏の虫っぽくて嫌だったが、気が付いたら吉川ビルの近くに居たこともあり、結局薬局立ち寄ってしまったのだ。 もっとも、兄さんの様子から、ルミ姉さんと顔を会わすのは、今日に限っては避ける気まんまんでいたにも関わらず、どういうわけかその本陣たるラウンジなんぞに入り込み、あにはからんや、今まさにカウンター前のストゥールで飲み掛けのワインボトルと共に化粧を始めようというルミ姉さんの姿を目の当たりにしてしまった……。 玄関ドアを背にしてギョッと佇んでいるアタシへ、姉さんはジロッと視線を向けると、こう言った。 「……なんだ」 「居たんだ……」 「上映会ないと、ここ居心地良いよね……なに、居ちゃ悪い?」 「まさか! ちょっと、トイレ……」 「じゃ、さっさと行きなさいよ」 そう言った姉さんはカウンターに置かれた百均のスタンドミラーへ向き直った。アタシは成り行き状トイレを目指し旅立った……。 その背後を過ぎしな、姉さんがアイライナーを宙に構えたままミラーを見据え、フッとこう呟くのが耳へ届いてしまった……。 「いつまで、こんな……」 便座へ腰を下ろしたアタシは、することとてなく、姉さんの言葉が含む意味を考えるしかなかった。 ただ、解答はすぐに出てしまったのだけど……。 この建物は表向きリョウ兄さんが所有していた。どういう次第なのかは知っちゃいないけれど、吉川とリョウ兄さんとの間でそうした流れになったようだった。但し、まだまだローンが残っていて、それを支払うのはルミ姉さんの役割りだったし、それもまた三人の間では取り決めが出来ており、そのことは書類として残されてもいるらしい。 ただ問題は、完遂するもしないもその時を決めるのは、吉川の腹積もり次第だということだった。いつまで姉さんは、その身体で払い続けなければならないのか……、さっきの独り言には多分そう言う意味が込められているのだろうし、滅多にあんな泣き言を口にしない姉さんが、つい口にしてしまう程、やはり今晩のローンの支払いにはよっぽどヘビーな行為が待ち受けているのかもしれない……。 酒に頼ってまで自らに追い込みを掛けなきゃならない、それ……。アタシは同情を禁じ得なかったし、やっぱり顔を会わせるべきじゃなかったのだ。 仕方がない、オシッコでもしてみようか、それともオナニーでもして時間稼ぎをしてみるか……。アタシは便座に腰掛けたままぐいーッと伸びをすると、ぐったり背後のタンクへ背を凭れた。することもなく十数秒……。そうなるともういけない、デニム越しに両手を股間へと滑らせると、瞳を閉じて、深々と吐息を吐いていた……。 アタシは便器の窪みへ尻を引き込まれ、くの字の呈だった。いきなり、便器から伸びた触手がヒュルルと太股に絡み付くと、あっという間に引きずり込まれたのだ。触手は小さな吸盤だらけでその規則的なブツブツ状がビッシリ敷き詰められた配列模様を見ているうちに、ゾワーッと総毛立ち、抗ってはみたものの、その度に絡み付く力が強まって、やがて身動ぎすら許されぬ状態に追い込まれていった。あとはもう、向こうの思うがままだった。気付いた時には、剥き出しのアソコに無数の黒蟻が群がっていた。恐怖に怯みながらも、アタシは自由の利く両手で股間のそれらを払った。が、払っても払ってもそれらは増殖するかの勢いでアソコにたかり、アソコをついばみ、前進を止めなかった。 アタシはもう払うのを諦めた。それどころじゃなかった。疼痛染みた快感に責め苛まれ続け、割れ目はだらしなく液体を漏らし続け、アタシは苦悶混じりの呻きを絶え間無く迸らせている始末だったのだから……。 アタシは悩ましげに割れ目を見下ろした。すると、もう2本別の触手が伸びてきて、割れ目をくぱぁっと左右からこじ開けたのだった。慌てて両手を再稼働させたものの、蟻の群体はぞろぞろと奥の細道を行軍していった。 「ウッ……ウゥー……グウウッ!」 何百、何千の針でなかをつつかれ、そっちこっちを噛まれたかの如く、アタシの内部は熱い痒みに似た疼きで火傷したみたいだった。洞窟を進みながら、それらが淫汁を掻き分けるのをその流れで感じ取った。実際、その流れは確認出来た。そう、割れ目からドクドク放出されていたからだ。 と、熱さのなかに少しヒンヤリしたなにかを闇の奥のそのまた奥に感じたと思ったら、それが次々飛び火していった。ただの働き蟻たちが、次々とアタシの子宮で射精を果たしているのだ。そう、種付け! 切羽詰まったアタシは。自由が利く上半身で大いに抗う。 「ウゥ……グゥッ、アーーーッ!!」 「痛ッ……」 アタシは、タンクへ後頭部をぶつけて、夢から覚めた……。 夢なのは分かっていたのに、快楽と嫌悪の入り交じり具合は絶妙で、アタシのアソコは調べてみるまでもなくデニム越しにもショーツのぐしょ濡れ具合が感知出来る程だった……。 「ハァァー……」 思わず溜め息を吐いたアタシは、今更ながらに尿意を感じて、座ったままモゾモゾとデニムにショーツを脱いだ。 「3、2、1、それぇ……」 シャーッって音を立てて出るわ出るわ、アソコから聖水が迸った。しっかし、どーして聖水って呼ぶんでしょ……なこと考えつつ聖水が立てる湯気に顔を寄せて晒した。なんか、何かの湯気に顔を晒す映画なかったっけ? 「なんだったっけ?」 どーしても思い出せなかったが、それで良かった。なぜなら次に何をするべきかの答えが出たからだ。互いにバツの悪い思いをするぐらいなら店へ帰ろう、そして湯気に顔を晒す映画がなんだったか、リョウ兄さんへ問い質そう。 決まり! 善は急げ!! そう意を決したアタシは、割れ目を拭いもせずに、腰を上げ、ショーツとデニムを一緒くたにずり上げると、水を流して外へ出た。 続く
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