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母が仕事で長い時間家を空けるから、ゆらの世話はほとんど俺がしていた。保育園の迎えも、ミルクを作ってあげるのも、オムツを替えるのだって。だから、兄妹というよりは父娘のような関係だと思っていたんだ。俺の生活のすべてはゆらのためにあった。学校の友達と遊びに行くよりも、ゆらのために夕飯を作ることのほうが大事だった。
「はる、おかいもの?」
昼寝している間に買い出しに行こうと思っていたら、ゆらが目を擦りながら玄関まで出てきた。お餅みたいだったゆらは、大きくなるにつれて本物の天使みたいになった。母も俺も本当に天使だと思っていたから、家の中では白い服ばかり着せてしまう。(ミートソーススパゲティが好きなゆらは、毎回それを汚す。)それでもお餅の名残りはまだあって、パフスリーブの半袖から覗く白くてもちもちの二の腕はいつまでも触っていられる。
「うん。ゆらも行く?」
屈んでゆらの視線に合わせると、嬉しそうに笑って「行きたい」と言った。履いてしまった靴を脱ぎ捨て、ゆらを抱え上げると、外行きの服に着替えさせる。ゆらが天使だとバレてしまったら大変だから。
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