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「この度、佐藤先生を担当する斎藤博一です」
前の担当編集だった井口さんが個別ベースに連れて入ってきたのは、頭一個分低い、童顔で可愛い系の顔立ちをした男性社員。でも、わりと鍛えた男らしい体躯がスーツの上からなんとなく伝わってくる。
アンバランスさが当時の面影そのまま残っていて、人違いかもなんて思考全く浮かばなかった。
「斎藤くん?」
「佐野?」
二人同時に言ったから、声同士がジャミングする。
斎藤くんは丸々と目を見開いて私を見つめた後、口角を上げた。
「おー!久しぶり!っていうか、佐野が佐藤先生か!昔から絵上手かったけど、本当に漫画家になってたんだな」
「そうなの。斎藤くん、ここの出版社だったのね」
「そうそう、ずっと文芸のほうにいてて」
「何?二人知り合いですか?」
私たちの間に挟まれた、ひょろっとした優男の井口さんが戸惑いつつ私たちを交互に見る。
「高校の同級生です」
斎藤くんはそう言うと私に視線を向けた。
十年以上前とその真摯な瞳がちっとも変わっていなくて、私は柄にもなく感極まって少し返事をするのが遅れた。
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