第一章 理想の恋人たち

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 ***  その後も、二人は喧嘩をすることなく一緒の時間を過ごしていた。  「片栗粉が足りないんだよ。もっと思いきって入れて大丈夫」  「あ、そっか。だから、直樹のに比べてカラッと揚がらなかったのね」  残念そうな愛香に、直樹は笑った。  「実はさ、俺、獣医学部の人間ってベジタリアンかもって思ってた時期あったんだよね」  笑う直樹を愛香は(にら)んだ。でも、可愛い表情にしか見えなくて、直樹は笑ったままだ。  「それなら、農業大学とかの学生は野菜を食べないってこと?」  愛香の反論に、一緒にいる同好会のメンバーが笑った。  「いや……あれは、そう、食べるのが前提だからさ。畜産と同じだよ」  苦しまぎれの言葉に、みんなが感心したと気づいた直樹が、愛香に威張るように頷いて、彼女は膨れた。そんな愛香を見て、玲奈が笑いながら会話に加わった。
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