第十章 過去を乗り越えて

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 どうして、勝手に決めつけたのか……きちんと準備をする性格と知っていた。だから、突然、変更するという考えが普通でなかったのに……  愛香にただの不安だと言われた直樹は、逃げ道がなくなったと思ったはずだ。自分を罠に()めた、倫世の父親がいる会社に行くしかないと……  きちんと聞こうとしたら、もしかしたら、直樹は倫世の罠の一部を話してきたかもしれない。口添えの部分だけなら、明かしても問題はない。  それを聞けば、愛香も辞退に賛成したはず。そして、きっと引っ越していただろう。そうなっていれば、二人は別れないでいたかもしれない。  でも、二人は、お互いの隣りにいる未来を選ばなかった。まったく違う未来へと続く道を自分たちで選んでしまった。  想いを持っていながら別れたのは、二人が選択を間違えた結果だ。  後悔に近い思いを持った愛香に、直樹は首を振った。  「愛香が悪いんじゃない。きちんと言わなかった俺が悪いんだ。  今から考えると、何やってたんだろって思うよ。  あいつがサークルを追いだされたら可哀想なんて、どれだけ自分を上に見てたんだって感じだよな。  愛香に隠れて、付き合おうなんて言ってくるような奴、その時点でサークルをかき回したのと同じなんだからな。  俺が追いだすべきだったのに……」
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