第十章 過去を乗り越えて

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 でも、当時、二十二歳の彼に、そこまでの判断ができただろうか。今の二人だから、その選択が間違いだと分かるけれど、あの頃なら愛香にも、一番と思う決断はできなかったはず。  社会に出て、いろいろな立場の人-先輩獣医師や飼い主と接するようになって分かったことがある。一人一人の考えや決断は違うのだと。  その中で、自分の判断力を磨いていっていると思える。  「あの頃なら、それはできなかったと思うよ。  私だって、貴方が付き合い断ったんだから、それ以上は追いつめなくてもいいんじゃないって言ったと思うし。  貴方だけが悪いって言いきれないんじゃないかな……」  「いや。俺が悪かったんだ。  きっと、一人で解決しようって思った時に間違ったんだろうな……なんでも言い合えるのが恋人なのに。年上だからって……無駄なプライドだったよ」  全部の事情を聞いて、やっと愛香は、気持ちの整理がつくと感じた。  そして、会う前までは考えもしなかった思いにも気づいた。  彼と、このまま終わりにしていいのだろうかと……
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