第十章 過去を乗り越えて

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 「愛香の傍にいさせたくなかったから。  あんな女が愛香の近くにいるってだけで赦せないから。それに、俺と話したら、あの女騒ぐんじゃないかって思ったから、別の店がいいだろうって。  二人の話の邪魔はしたくなかったんだ。  実際、最後はすごい大声でさ。店中に響いたよ。ほんと非常識な女だったな」  誠之がそこまで倫世を嫌っているとは、彼女はまったく予想もしていなかった。普段、誠之は、愛香だけでなくみんなに優しいから、冷酷な部分があると知って少し驚いた。  でも、人は、一方向から理解できるほど簡単なものではない。  直樹は面倒見が良かったけれど、問題は一人で解決しようとする、ある意味、自信過剰な部分があった。  倫世は、可愛いと思わせる無邪気さがあった。でも、それは、自分が欲しければ、人のものでも構わないという、わがままな部分と裏表だった。  そして、愛香も同じように欠点がある。でも、それを注意し合って受け入れて、交流は続くのだと思う。  お互いの行き違いが原因で大きく離れていた直樹との距離が、以前とは別な形になって、また近づいてくるのが分かった。  これからは、友情という形で彼と付き合っていくのだろうと、愛香は思っていた。
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