第十章 過去を乗り越えて

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 母親が、ハンカチで涙を静かに(ぬぐ)ってくれた。  「愛香……誠之さんと幸せにね……本当に良かったわ」  直樹と辛い別れをしている。余計に今日の幸せが嬉しいようだ。  その直樹と和解したことはまだ言っていない。二人は二次会に来ないから、彼とは会わない。  説明する日が来るかは分からない。でも、一つの区切りがついたから、怒りをいつまでも持っていてほしくないと思った。  「誠之くんと支え合っていくんだぞ。  彼は本当に素晴らしい男性だ。愛香を絶対幸せにしてくれる。  でも、頼るだけでなくて、頼られるような女性になるんだぞ」  父親は感慨深そうだ。愛香は、直樹のことは後で考えようと思った。そして、挙式のことだけに気持ちを向けた。  「はい……二人の娘として恥ずかしくないように頑張ります」  ここで係員が声を掛けてきた。  「お母さま、よろしくお願いします。お父さまはこちらに」  もう少しすると、結婚式が始まる。
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