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従姉弟の会話が終わって、玄関で靴を履いていると、母親の、少し窺うような声が聞こえてきた。
「白井さんと付き合って一年過ぎたんでしょ。喧嘩とかはしないの?」
「全然。俺、女性の立場を良くするために努力してる彼女のこと、すごく尊敬してる。
でも、普段の彼女はすごく可愛いんだ。年上って忘れるくらい。だから、喧嘩することなんかないね」
一目惚れだけど、彼女の頑張りを知れば知るほど、尊敬の気持ちが強くなっている。そんな大翔と和香は、言い争いもほとんどないくらいだ。
母親は、大翔の左手に視線を向けている。薬指にはシンプルな指輪。さすがに結婚したかと訊けないのは分かる。
「俺は、早く結婚したいけど、デキ婚は避けたいと思ってる。
彼女のキャリアを尊重しないとね」
結婚指輪でないと仄めかすと、母親は静かに返してきた。
「そんなに仲がいいの。そうなのね……」
微かに感情が動いているのかもしれないから、大翔は、それ以上は会話を続けないで東京に戻った。
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