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中二病と言われた俺は、本当は……(邪道ファンタジー)
お題「火」「蜃気楼」「暗黒の子ども時代」
ジャンル「邪道ファンタジー」
俺の子供時代は最悪だった。あぁ、まさに黒歴史ってやつだな。なぜそんなことになったか? それは、俺には異世界のモンスターを召喚する力があるからなんだ。もちろん今はそんなことは軽々しく口にはしないさ。学んだからな。暗黒の子供時代に。完全にクラスの奴らには、頭のおかしな奴認定されて、中学の三年間は常にぼっちだった。
まぁ良いさ。
あの時笑い者にした奴らに今こそ復讐してやるんだ。中学生の頃の黒歴史なんて、中二病なんて言葉があるくらいおかしな精神状態になるのは珍しくない。
けどな、成人した今モンスターに襲われたなんてこと言ってみろ。完全に人生終わりだ。ザマアミロ。
明日から、あの時のクラスメイト一人ひとり、ありんこみたいにプチプチとつぶしに行ってやる。そう考えると、大嫌いだった卒業アルバムを見るのも楽しいものだ。考えるだけで愉快だ。
小学校の低学年の頃、遠足の前の日に楽しみで眠れなくなった、あの感覚を久々に思い出した。
まずは順当に中一の時のクラスメイトからだ。出席番号一番、天野。今だに実家暮らし。最寄駅で待ち伏せして、そこからつけた。人気がなくなったところでモンスター召喚。
「雑魚には雑魚モンスターで十分だ」
この先のことを考えると、可笑しくてしょうがない。
「出よゴブリン!」
前方を歩いていた天野の眼前に、蜃気楼のように闇夜の空間が歪み、三体の醜悪な小鬼が現れた。
三体のゴブリンはそれぞれに、棍棒を振り上げ、獲物をみつけた喜びで、ところどころ茶色く変色した尖った歯を見せて口の端を持ち上げた。天野は言葉にならない奇声を発して走り出した。今きた駅の方に向かっている。手にした鞄を振り回し、傍目には完全に錯乱状態だ。
あの当時、なぜ俺が頭がおかしいと思われていたか、その理由の一つは、召喚した者にしかモンスターが見えなかったからだ。あれから何度となく実験を繰り返し、ターゲットとして襲う相手をはっきりさせてから召喚すれば、そのターゲットにもモンスターが認識されることを突き止めた。
だから、このまま天野が駅の人混みの方へ行けば、完全に終わりだ。本当に愉快だ! 騒ぎに駆けつけた警官に取り押さえられるところまで確認して、俺は満足して家路についた。
こうして順調に中一の名簿をつぶし、中二の半分まで復讐は進んでいた。雑魚にはゴブリンかオークを、気に入らない奴にはオーガとかケルベロスとかゴーレムみたいな大型のやつを出してやった。
みんな入院した。精神病院の隔離病棟だ。
そろそろ一番気に入らなかった、中里のところにでも行くか。
クラスの委員長で、正義感ぶって俺を庇うようなそぶりをしていたけど、アイツの観察するような目が気に入らなかった。
あの優等生には何をけしかけようか、それを考えるだけで俺は、笑いが止まらなかった。怯え泣き叫ぶ姿を早く見てやりたい。これまでは一度も使った事がなかったが、怯えさせるには、あれがちょうどいいはずだ。もしかしたら、少しはリスクがあるかも知れないが、俺ならやれるはずだ。
「出でよアーク・デーモン!」
中里の背中を見つめ、唱えた。夜の闇が、灰色の蜃気楼のように揺らめき、徐々に形作られる邪悪な姿に俺の心は踊った。
「安原くん、居るんだろう?」
中里に名前を呼ばれ、心臓が跳ねた。
「安原くん、悪魔を呼び出すなって、君は何て事をしたんだ。悪魔召喚には代償が必要な事を知らないのか?」
代償。その可能性は考えていたが、言葉として言われては気になる。それにーー
「なぜ、お前がそんな事を知っている!」
「出でよ!炎の魔神、イフリート!」
中里の前に炎の魔法陣が描かれ、その中から赤い肌に大きな角を持った魔神が現れた。
「僕も召喚できるのさ。イフリートだけだけどね。でも、レッサー・デーモンよりは、強いと思うよ」
相変わらず気に食わない。
「安原くん、悪魔召喚にはそれだけで代償が必要なんだよ。魂を捧げるつもりなのかい?」
「魂?」
「あぁ。自分の魂か、この場合だと僕になるんだろうけど、嗾ける相手の魂。僕はさっきも言ったように負ける事はないと思うよ。残念だよ。いつか、異界のものを呼び出す力を持つ者同士、打ち解けたかったよ」
「今更だろ。中学を卒業してからだって、一度もお前は接触してこなかったじゃないか! どうせ、俺と同じ目にあわないための保身だろ。綺麗事だ」
「多分そうだ。僕は君みたいになるのが怖かったんだと思う。すまなかった」
「そんな簡単に認めんなよ。俺はどーすりゃいいんだよ!」
「君をこんなに追い詰めていたなんて、本当にすまない」
中里が頭をさげる。
「俺の人生なんて、クソみたいなもんだった。もういいよ。じゃぁな」
中里に背をむけた俺の前で、レッサー・デーモンが、口の端を上げた。
「もう、終わりだ。俺の魂はお前にやるよ」
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