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悪の山田くん(指定なし)
お題は「雪」「橋」「悪の山田くん(レア)」
ジャンルは「指定なし」
ぼくの名前は山田太郎。
やまだたろう、よく記入の見本にもなるくらいありふれた名前だ。だけど、ぼくの通う小学校には一年生から六年生まであわせても、山田という苗字はぼくの他に二人、太郎という名前はぼくだけしかいない。だから、じつはあんがい珍しい名前なんじゃないかと思う。
ぼくは時々おかしなことをしているらしい。「らしい」というのは自分ではそんな風に思ったことがないからだ。でも、みんなからすると、とてもおかしくてヘンテコなことなんだって。
いつも同じ方向を向いて授業をするのに、あきあきしていたぼくは、みんなが帰ったあとで先生の机を一番うしろに持ってきて、みんなの机も全部、前と後ろの向きをあべこべにしたんだ。だって、そうしたら、いつもとちがった景色になって、授業も楽しいと思ったから。
そうして、次の日はわくわくして学校に行ったんだ。みんなはとってもおもしろがってくれたよ。
「あべこべだー!」
「いつもとちがーう!」
「なんかへんな感じだけど、楽しいねー!」
みんな楽しそうに笑っていたから、ぼくはうれしくなったんだ。
そこに先生が入ってきて、これはどうしたんですかと聞いたから、ぼくはピンとまっすぐに手をあげて、ぼくがやりましたと元気に答えたんだ。そうしたら、先生はすごーく怒りだしたんだ。
「こんなイタズラをしてはいけません。みんなが困るんですよ」
でも、みんなはとっても楽しそうにしていたのに。
テレビで飛行機から見ないとわからないくらい大きな絵があるんだって知って、ぼくはすごーくおどろいたんだ。それで、みんなにもそんな風におどろいてほしくて、朝早くに学校に行ったんだ。校庭いっぱいに、大きな大きな絵を描いたんだ。ぼくらの教室は四階だから、きっとよく見えると思うと、太いぼうをグランドにこすり付けるのも、苦にならなかったんだ。
登校してきたみんなが窓にならんで、校庭を見てる。やっぱりみんなうれしそうだ。でも、先生には二度とやってはいけませんと怒られたんだ。
三学期、最初の週の木曜日、五時間目のとちゅうから、降り出したんだ。しんしん、しんしん、大きなぼた雪が。そうだ!ぼくはいいことを思いついたよ。ぼくは夜中にそーっと家を抜け出した。夜中の学校はちょっと怖かったけど、すっごく、すっごく寒かったけど、重たいホースを引きずって、がんばったんだ。きっとみんな大よろこびだよ。
翌朝、ぼくはちょっとねぼうしたんだ。橋をわたって走って、走って、学校に近づいたら、ぼくもびっくりした。遊園地みたいな、みんなの声。
校庭はスケートリンク。みんなすべって転んで大さわぎ! でも、先生はカンカン! 夜中にぼくがやったってバレちゃったみたい。
そしたらコータが言ったんだ。
「あれは山田くんじゃないよ! 山田くんの中の”悪の山田くん”がやったんだ!」
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