第1章:未知の駅

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第1章:未知の駅

「予定していたより()く列車が参ります 黄色い線まで御下がり下さい」 仕事のミスを上司に報告するように 言葉を詰まらせたアナウンスが 駅のプラットホームに響き渡る。 まるで列車が早く到着する事を嘆くような… ダイヤに余裕があるのなら 後ろめたい事など無いだろうに… 健二(けんじ)はそう思って違和感を感じた。 平日午前7時の大宮駅。健二にとっては 日常生活のルーティーンであるはずの場面が 見慣れない光景となっていた。 会社員と学生の通勤ラッシュで駅か混雑する 時間帯の(はず)だが何故か誰もいない… まさか下車する駅を間違えたのか? いやそれは有り得ない。 建物は間違いなく大宮駅である。 じゃあ時間帯を間違えたのか? いやいやそれこそ有り得ないだろう。 朝御飯にジャムパンと目玉焼きを食べて 自宅を出た事を健二は鮮明に覚えていた。 家を出る前に妻:頼子(よりこ)から渡された 高血圧の薬がYシャツの胸ポケットに 入っている。 (まいったな…ここは本当に大宮駅なのか?) 健二は首を傾げながら肥満ぎみで 出っ張った御腹を軽く擦る。 この場所が何処なのか必死に考えていたが 思い当たる節は無く、昨夜自宅で飲んだ ビールのせいだろうか?頭が割れるように痛む 五十代前半の健二には少々深酒過ぎたようだ。
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