星降る夜に

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星降る夜に

 それから、また1年経った。あんなひどい目にあったのに、私は未だに悠飛を忘れることができない。裏切られていたとしても、悠飛に片思いしてた日々も、流星群の下で、思いを通わせた後も、とても幸せだった。悠飛が、もっと普通の家庭で育った人なら良かったのに。  あれから、私は、実家に隣接する市役所の観光課で働いている。今年は、流星群のピークの時間帯にちょうど月が沈むので、絶好の流星群観測日和。観光課としては、PR活動に大忙しだ。観測地点の高原は、隣町だけれど、ホテルや昼間の観光地などが、隣町にはないので、無関係ではいられない。  私は、辛い思い出と隣り合わせで、日々仕事をこなしていく。  そして、流星群当日。私は観光課のメンバーと視察に訪れた。 悠飛と、もう一度来たかった場所。 おじさん2人とおばさん1人の計4人での視察。ついていけない話題も多いし、仕事だし、正直、おもしろいわけがない。 人生なんて、そんなものなのかな。 そんなことを思っていると、後ろから声を掛けられた。 「光?」 聞き覚えのあるその声。私は、一瞬で固まった。絶対そう! 分かってるからこそ、振り返れない。隣にはあの人が並んでるかもしれない。手を繋いだり、腕を組んだりしてるかもしれない。  私がその場で固まっていると、もう一度、呼ばれた。 「光だろ⁉︎」 すると、同じ課のおばさん事務員の林田さんが私の肩をトントンと叩く。 「光ちゃん、呼んでるわよ。知り合い?」 そんな風に言われてしまっては、振り向かないわけにいかない。私は、恐る恐る、ゆっくりと振り返った。 悠飛は、そこに1人でたたずんでいる。 「光ちゃん、行ってきていいわよ。私たち、この辺にいるから、1時間後、集合ね」 林田さんは、私の背中をポンっと押した。私は、よろけるように悠飛の前に進み出る。  でも、何て言っていいのか、分からない。私は、無言で立ち尽くしていた。 「光、話がしたいんだ。ちょっといい?」 悠飛は、手を繋ごうと手を伸ばす。けれど、私は、とっさに後ずさってしまった。暗がりでも分かる落胆した表情に、私の胸はズキンと小さな音を立てた。決して拒絶したつもりはないのに。 「……そうだよな。今なら、光の気持ちも分かるよ。1年前のこと、ちゃんと説明したいんだ。上のベンチまでいい?」 「うん」 私は、それだけ返事をして、彼の後ろについて行く。私たちは、斜面の上の管理事務所前に置かれたベンチに腰を下ろした。 「光、ごめん。ちゃんと言うべきだった。俺、全部、片付いてから、光には言えばいいと思ってた。でも、突然、光がいなくなって、初めて気付いたんだ。ちゃんと話して欲しかったって。でも、元は、俺が言わなかったせいだし、悪いのは俺だってちゃんと分かってる。だから、今、1年前に言えなかったこと、ちゃんと言うよ」
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