星降る夜に悲涙はいらない

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 廃屋のアパートが眩しいヘッドライトに照らされて顕になる。その庭先へ灯りの元となる車が入って来た。 「ようやく来たか」  停車した車から降りてくる友人たちを見て洸也が確かめるように口にする。  持ってきたランタンの灯りを洸也、香織、美津穂、達郎、和真の五人で囲った。  みんなで挨拶を交わし、他愛もない雑談を交える。 「さて、それじゃ。各々方、お手元に飲み物は行き渡ったか?」  音頭を取るように達郎が立ち上がる。 「憎ったらしい星降る夜に!」  それぞれの飲み物をぶつけ合って乾杯をする。久しぶりに五人が揃ったことを祝いながら。香織、美津穂、達郎はビール。洸也と和真は麦茶を手にしている。  一気に空けたロング缶を軽く振って達郎が全員を見回した。 「ほんっと、みんな久しぶりだな」  明るくよく通る達郎の声。それに和真が起伏のない静かな声で返す。 「達郎は来れても来ないから。久しぶりなのは達郎の問題なんだよね」  和真の返しに、達郎が突然に両の手指を組んだ。両目を瞬いて、見上げるように顔の角度を変える。 「うん、久しぶりだね」  達郎が野太い裏声を作って小首を傾げた。それから、俯いて深く溜息を吐く。 「--ってくらい心良く言えねえかな」  アルコールを摂ってない和真が、酔いが回ったように首を振った。 「なんだろう。気持ち悪いや」 「キモいな」 「うん、キモい」  洸也、美津穂が即座に同意する。 「香織、あいつらちょっと誘い断ったくらいで俺に辛く当たるんだ。慰めてくれ」 「私も会えて無いし、仲間仲間」  香織の言葉に勇気づけられたのか、達郎が勢い良く手を上げた。 「俺にだって事情があるんですー。商社マンは行きたくもない付き合いに出るものなんですー。洸也わかるだろ」 「俺はあんまり。公私きっちり分けたい派だし。適当にやってるよ」 「っかあ。これだよ。出来る奴は違うな。言うこと違っちゃうなあ」  ため息を一つ吐いて、達郎が開けたばかりの缶を更に煽る。 「いつも通りに話しちまうなあ」 「お前のせいだよ--おかげだよ」  洸也が言い直す。達郎が苦虫を噛み潰したような顔芸をしていた。 「そうだよ。達郎のおかげ。今日は、そういう風でいたいからさ」  和真が夜空を見上げる。星が落ちることを止めない夜空を。  超常の夜空。その下で話が弾み、酒が進み、夜が深まる。  時計が回れども、話題は尽きない。昔を語らうばかりじゃない。近況を語るだけでもない。脈絡なく、話題も選ばない。気安い仲だ。  だけど確実に無くなくなっていく物もある。 「あらら、もう空ね。無くてもいいけど、それはちょっと味気ないかな」  達郎が持ってきた日本酒の小瓶。それを美津穂が軽く振る。 「ここは、お開きかしらね」  ポツリと美津穂が呟く。視線は夜空へと向きを変える。 「場所、変えよっか」 「んじゃ、うちの実家行くか。酒もあるしな」  空いた缶を潰して達郎が立ち上がる。 「ジジとババにも顔見せろって言われてるからな。それにこんな片田舎。近場じゃ他にねえだろ」 「そうだね。じゃあ、続きは達郎の家で。僕もそこでは飲もうかな。いいよね?」 「何を構う必要があるかよ、飲め飲め」  達郎が気前よく笑い、和真と肩を組む。  その光景に笑みを浮かべた美津穂が、洸也と、そして香織を見た。 「--二人はどうする?」
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