星降る夜に悲涙はいらない

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 閑散とした舗装路を車が突っ切っていく。  洸也はハンドルを握ったまま、視界に収まる星が流れる夜空を見ていた。  助手席では香織がルーフを避けるように体を傾けて夜空を覗いている。 「流れ星が地球に降り注いで、今日で世界はお終い」  星空を見上げながら、香織がぽつりと零した。 「どうする?」  洸也が後部座席に視線をやると、美津穂が寝息を立てている。乗り込むなり、充電、と宣言してそのまま後部座席に沈んでいった。スイッチでも付いているようなオン・オフの切り替えは彼女の溢れるバイタリティの源かもしれない。  美津穂が答えられない以上、応じるべきは洸也だ。そう結論した彼が口を開く。 「馬鹿話だって笑う。それだけで済まない話なら--」  いやに真面目な声。 「香織風に言うなら--俺は俺にとっての最善を選ぶ、かな」 「うわぁ」  洸也の返事を聞いて、香織が引いた声を出した。 「何だよ」  咎める洸也の声が既に笑っている。 「端から見たら、これは痛いね」 「今更過ぎる。何年越しだよ」  洸也に言われた香織が、しばらくの間、声にならない唸りを上げていた。だがやがて、気の抜けた声が上がって唸りは止まる。 「どうした」 「いや、確かに痛いけど。癖一つ、嗜好一つだって私だもんね。これを変えるなんて、それこそ今更かなって」  聞いて洸也が吹き出すように笑う。 「あー、また。何で笑うかな」 「言うと思ったから」 「理解があるのは良いことだよね」 「ガキの頃からの付き合いだから、お互いわかることは多いよな」 「わからないことだってあるよ」  零れ落ちたもの掬い上げるようにして、互いに言葉を交わす。 「思い切った事するよな」 「そうかな」  香織は、何が、とは確かめない。 「ブラジルってどうなんだ?」 「どこだって住めば都でしょ。慣れるものだし? そういうものですし。日本の裏側ってのが、気に入ってる」 「日本嫌いかよ」 「違います。残念。ハズレ」  人差し指を交差させて、香織が主張する。 「育った場所から遠く離れてみたかったから。見えるものが違うかなって。わかることがあるかなって」  ぽつりと香織が零す。誰かに聞かせるような声ではなかった。  彼女の視線はずっと星降る夜を見据えている。
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