八月十一日

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「て、てきは神速の黒き影……」    ばたり、とサクはスマホの横で力尽きた。    黒い影は俊敏なわりに重量があったと思われる。 『光の申し子設定を守る力は残すのかよ……』  マサノリは、ため息をつくとスマホの通話アプリを起動した。 「すみませんチカ先輩。おそらく、そっちへ行くと思うのでお願いします」 『まかせてマサノリくん』  マサノリから指示を受けたチカが明るく返事をする。  道ばたでしゃがむ彼女のすぐ横には棒に立てかけたザルと駄菓子が置かれていた。  ザルの外側には三枚の札が貼りつけられていて、棒にしばりつけられたひものはしをチカが握っている。  よくある簡単なワナだ。 「あっ来た」 『気をつけてください。サクの無駄に多い自己紹介で興奮しているはずなので』  前方に黒い影の姿をとらえたチカは、にっこり微笑みかけた。 「ほらほら、おいでおいで」  動物を呼ぶ感じでチカは手招きする。  サクのいうとおり黒い影は興奮していて、けたたましい声をあげながら突進してきた。  イタチみたいな姿かたちをしているが、前脚の爪からはカマが生えている。  一匹が先頭をきってチカにおそいかかろうとしていた。  他の二匹も我先にと進路を譲らない。  するどい刃先がぎらりと光る。  ――と、三匹はチカではなく駄菓子めがけザルの中へ一直線に突っ込んだ。  チカが、ひょいっとヒモを引く。  ザルが三匹のうえに落とされた瞬間、貼りつけてあった札も消滅した。
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