八月十一日

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「ちょっとシロガネさん、やめて!」  乱入したチカがシロガネを突き飛ばす。  意識が遠のいたり、はっきりしたりをくり返したせいで、どちらが通常の状態なのか自分自身も分らなくなりそうだった。  オレの背中をさするチカがシロガネに抗議する。 「司は物の怪アレルギーなんだから!」 (アレルギーみたいなもんだけど)   物の怪に対して五感が過敏に反応を示す。  この厄介な体質を幼なじみの彼女が勝手にそう名づけたのだ。  要は霊感が強いということである。 「荒療治ってヤツだよ。ひ孫ながら情けねぇ」  ふんっと鼻を鳴らすシロガネをにらみつけたけれど、そんなオレを無視して彼は、どす黒い塊を握りつぶした。 『――ぎゃああ』  どす黒い塊が炎に包まれ、人間の声とは異なる気持ち悪い悲鳴が上がる。  焼きつくされ、ぱらぱらと炭の破片だけが残った。 「そ、それは悪しき魂を断罪する裁きの炎! ぐへっ」 「おまえもいちいちうっせぇんだよ厨二病」  目の前で起きたRPG要素に感激するサクをシロガネは足蹴にする。 「そういう技を伝授するほうが司のためになると思うんですが」 「ダテメのオカルトマニアもだまってろ。いいか? 去年同様十六日夕方、鳥居に集合。それまでに捕まえた雑魚をぜんぶ持ってこいよ」  一方的に言い終えるとシロガネは屋根の上を飛んで去ってしまった。 『それまでに』  つまり明日から十六日夕方手前も期間として含まれていたりする。 「マジで勝手なジジイだよな。貴重な夏休みだってのに」  ぼやくサクに悪いなと思った。 「サク。司に悪いよ」  オレの様子を察したマサノリがサクを小突く。 「あっ! 司を責めてるわけじゃないから! マジごめん! どんな困難や試練が待ち受けていようとも我等が友情は不滅だ」 「サクの意見に同意だから気にしなくていいって」 「そうよ。司だって、いっつもクソジジイって叫んでるんだから」  途中から光の死者モードに切り替わったサクをなだめているとチカも口を挟んだ。  オレたちは四人で町中を徘徊する物の怪を捕獲している。  チカいわく普段は昼間に暗がりを見回る程度、らしい。  でも夏休みになってからは毎晩ぎりぎりの時間まで追いかける日々だ。
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