八月十一日

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「神隠し現場の所有者の娘と神隠しにあった人のひ孫がいっしょなんてね~」 「どういう神経してるのかしら?」 「加害者と被害者みたいよね~」  どうして、ばばあっていうのは余分なことばっかり言うんだろうか。  自分がやり玉に挙げられたら棚上げしてキレまくるくせに。 「そんなのただの都市伝説でしょ。それにうちの曾祖父は神隠しになんてあってませんから」  ばばあたちの耳にしっかり届くように少し声を高めに出した。 『』が『』をかばうような発言をしたから、ばばあたちは肩をびくり立てる。 「でも、都市伝説ですし。もしかしたら本当にお盆期間中イッテンシカイが来るかもしれませんね」  語尾をあげて厭味ったらしくつけ足してやった。  曾祖父は神隠しにあってはいないし、ましてやチカが神隠しを引き起こしたわけでもない。  勝手に被害者と加害者という相関図を作っている無神経さに腹が立って、気分の悪さへの着火剤となった。 「きゃあっ」と、ばばあふたりが悲鳴をあげて尻もちをついている。  坂道なので危うく、ごろごろと転がっていきそうだった。  ひゅっと何かが頬をかすめていくのを感じたと思ったら、三匹のかまいたちが、ばばあ二人組の周りを飛び回っていた。  一匹がふたりを転ばせ、二匹目が斬りつけ、三匹目が薬をつける。  ふたりはなぜ急に転んだのかわけがわからないといった様子で、そそくさと逃げていった。 「司、BBAなんかほっときなさいよ。相手にするだけエネルギーのムダ使いなんだから。きみたちもね。ありがと」  ばばあたちが去ったのを見て、かまいたちもチカの頭に戻っている。  彼女のことを悪く言うのが許せなかったのだろう。 「信心深さのカケラもないくせに、噂話だけはしたがるのよねBBAって」 「おまえって、ほんとメンタル強いよな」  人生経験値だけは長いばばあ連中に色々言われたら、へこまないか?  あっけらかんとしているチカには毎度感心させられる。 「部外者はぎゃいぎゃい言いたがるのよ。あっちが経験値を振りかざすなら、こっちはぴちぴちお肌が武器」 「ぴちぴちってその表現がばばあ臭い」  ばあちゃん子のせいか微妙に言い回しが古かったりする。 「『なんでも知ってます~』なんて顔して、知ったかぶりでデマ拡散させるのが一番害よ。イッテンシカイのことだってシロガネさんのことがなければ迷信で片づけていただろうし」  この町には神隠しの言い伝えがある。  盆の間の四日間に鳥居をくぐるとイッテンシカイにさらわれるという内容だ。  大昔からあった言い伝えで、鳥居のそばには童歌(わらべうた)みたいなものが彫られた石碑もある。  しかし時代が流れるにつれて言い伝えは風化して、ほとんど迷信扱いになっていた。  真夏の怪談話で『そんな都市伝説あったよね』と、たまにネタとして浮上するくらいには軽く。
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