八月十一日

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 チカは気を良くして「ド派手なのたくさん用意したんだ」と自慢げに続けている。  店とはチカのばあちゃんがやっている駄菓子屋のことだ。    裏は石畳で花火をするにはちょうどいい場所ではある。    鳥居さえなければ……。    なるべく近寄らないようにしていても、鳥居の向こうから湧いてくる物の怪の気配は気持ちのいいもんじゃない。  断れば済む話なんだけど。 「もちろんシメは線香花火ねっ」  これも毎年の恒例だ。  浴衣姿の彼女に祭りに強制連行されて露店で食い倒れ。  そのあとは駄菓子屋の裏で花火をする。  ラストは線香花火の持久戦で幕を閉じるのだ。                  * * *     「またあの女と乳繰り合ってたのかよエロガキ」  自宅の私室にもどれば、白髪の着流し妖怪狐がベッドに寝そべり酒をあおっていた。 「ひとのベッドで勝手に寝てんじゃねぇよ。クソジジイ」  数十年前失踪した曾祖父は目の前にいる。  しかも神隠しにあったのではない。  こいつは自分から鳥居の向こう側に行ったのだ。  
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