八月十一日

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 オレの住んでいる町にはいわくつきの鳥居がある。    数十年前ひとりの山伏が、その鳥居の前で神隠しにあったのだ。   「サク! そっちに行った」    昼間の猛暑を引きずる夕方。    ギラギラな太陽光を塗りつぶす濃いオレンジ色が余計に暑苦しい。    閑静な住宅街に緊張感のあるマサノリの声が響いた。    縦横無尽に飛び回る三つの黒い影をダテメガネ越しに追う。    タブレット端末に表示された住宅地図画面を見ながら、彼はワイヤレスイヤホンで指示を送った。 『了解!』  イヤホンの向こうから快活に応えたサクはスマホをウエストベルトに押し込む。  袋小路で虫取り網をかまえたサクの前に黒い影が飛び込んでくる。  つむじ風のように空中で乱れながら迫りくる影にサクは高らかに宣言した。 「現れたな迷える闇のしもべよ! この創造主に選ばれし光の申し子、ウィリディス・フルフィウスが討伐してやっ! ぐへっ」  高らかな宣言が終わるより早く、黒い影はサクを踏み台にして袋小路を突破した。  後頭部を思いっきりけられたサクは派手に地べたに倒れ込んだ。  ちなみに厨二病な名前は彼の苗字に由来する。 『光の申し子が敵に逃げられてどうするの』  アスファルト上に放りだされたスマホからマサノリのお叱りの声が届く。
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