八月十一日

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「かまいたち捕獲」  チカはザルをおさえつけて満足げに呟いた。  中からはぴぃぴぃという悲し気な鳴き声がしている。 「ありがとうございます。チカ先輩」 「駄菓子につられるって相変わらずチョロすぎ」  合流したサクとマサノリが感心した声をもらした。 「口ばっかりで動きがともなってない光の申し子が言うなって」 「オカルト心霊マニアにはヒーロー心がわかってないんだよ!」  冷たい視線のマサノリにサクが反論する。 「ヒロインを危険にさらして光の申し子を名乗れるのか?」 「ハッ! そうだ……。オレは自分の使命を重視するあまり姫の御身を……! くぅっ、申しわけありません姫」  マサノリからの指摘で、光の申し子モードに切り替わったサクがチカに向かってひざまずいた。 「まぁまぁ。切られたって、かまいたちは一匹が傷をきれいに治すんでしょ? 駄菓子につられてあっさりザルの中に入ってくれたし気にしないで」 「ありがたきお言葉! このウィリディス・フルフィウス、来世に転生しても忘れません」  八月の熱帯よりも、はるかに夜暑苦しいサクともチカはふつうに会話している。 「おーおー。しっかり物の怪捕獲が板についてきたじゃねぇの」  三人とは別の軽薄な声があがる。 「シロガネさん。いるなら手伝ってくださいよ。あなたが妖術を使えば一発なんですから」  マサノリがブロック塀の上で煙管(きせる)を吹かす白髪の男に話しかけた。  着流し姿のその男は、ざんばらな髪におおきな狐耳を生やしている。  赤い目張りに囲まれた金色の瞳が怪しく光った。 「んなザコ相手にむだな労力使いたかねぇんだよ」 「巻き込んだ張本人が言います?」  シロガネはあくびをして寝そべる。  都合の悪いことを聞き流す性分は人間だった時と同じだ。 「っていうか司は?」  あきれる空気のただよう中、思いだしたようにサクがもうひとりの名前を口にした。 「あ。また倒れてる」  GPSで位置情報を確認したマサノリが目的地へとかけだす。 「マジかよ。熱中症じゃなきゃいいけど」  サクもいっしょにかけだした。  
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