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このとき、妹の陽咲はお絵かきに夢中で、母親の様子に興味がないようだった。今思えば、見ないで正解だったかもしれない。いや、実は見ていたということに後で気づくのだが、それは、今は置いておこう。
とはいっても、その時に見なくても、早かれ遅かれ目にすることになったので、正解も不正解もないのだろう。陽咲は、その後もお絵かきを続けていたが、お絵かきに飽きていた幼い私は、つい覗いてしまった。
「なっつ。」
難しい本でも読んでいるのかなと思っていた。母親は、意外にも物知りだったのだ。理由がわかれば納得もできるのだが、当時の私はそんなことを思いつくことがなかった。そもそも、その年で思いつく方がおかしいので、私は何も悪くない。あまりの衝撃に思わず言葉が詰まってしまった。
「なっつ。」
私が自分の本の中身を見ていたことに気付いた母親も、私と同じように言葉に詰まっていた。しかし、すぐに行動を起こした。バッと本を閉じたが、時すでに遅し。当時の私はばっちりと見てしまった。母親は勢い良く本を閉じ、机に置いた。しかし、机の端に置いたせいで、ガタンと床に本は落ちてしまった。
「はだかのおとこのこふたりがだきあっている?」
「あはははははははは。忘れなさい。これは忌まわしき記憶。さあ、わすれてしまえええええええええええ。」
やばいものを見られたとばかりに、母親は勢いよく私の肩を揺さぶり、忘れろと繰り返し呪いの言葉のように私の脳内に刷り込んでいく。母親は必死だった。確かに幼稚園児の子供にBLの濡れ場のシーンを見られたら、普通は慌てもするはずだ。そこは普通の感性を持っていたようだ。
「びえーーーーーーーん。」
しかし、あまりの形相で私を揺さぶってくるものだから、怖くて泣いてしまったことをよく覚えている。
「ままも、きさきちゃんもうるさい。」
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