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陽咲がうるさいと言っていた気がするが、とにかく、ものすごい勢いで泣いていた気がする。それにつられて、最終的に陽咲ももらい泣きをしてしまい、家族は大パニックに陥るのだった。
パニックは父親が帰ってくるまで続いた。たまたま、その日は帰りが早かった父親だったので、家族3人が泣いている様子をみて、どうしたいいか立ち尽くしていた。私たち子供が泣いているのは仕方ないが、どうして、自分の妻まで涙目になっているのか理解できなかったようだ。
その後、母親から事情を聴いて、父親は私たちをあやし、母親のことも、頭をなでなでして、気持ちを落ち着かせるように働きかけていたらしい。
「いいかい。ママがみていたものは、大人しか見てはいけないものだったんだ。だから、あのときみたことは忘れなさい。いいね。」
私たちが泣き止んで、落ち着いた頃合いを見計らって、父親が母親と同じような言葉を口にした。母親とは違い、優しい口調だったが、母親の言葉と似たようなものだった。父親の優しいが、妙に凄みのある言葉と表情に、当時の私たちは素直にうなずいたのだった。
「わかったよ。パパ。」
「ひさきちゃんも、なにかみたのなら、それは忘れるように。」
「ひさきちゃんはなにもみてないよ。」
私たちの言葉に安心した父親は、母親にしていたように私と陽咲の頭をなでなでしてくれた。
「何を思い出していたの。」
リビングでぼうっとテレビを見ていたのを陽咲に見られたようで、ハッと我に返る。どうやら、過去の思い出に浸っていたようだ。
「いや、私たちが母さんのことをやばいと思い始めたきっかけの事件を思い出していた。」
私が素直に話すと、陽咲にも覚えがあるのだろう。すぐにああ、と手を打って納得していた。
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