1.専属秘書

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だがこれで帰るわけではない。 私が目指したのは給湯室だった。 この時間に残っているのは基本的には管理職。 それから専属秘書たちと忙しい人ばかり。 「あ、好み知らない。」 一応ブラックにしてから砂糖とミルクをあとから入れられるように持っていけばいいか。 きっと帰らないことに何か言われそうだけど、これで帰ってもいけない。 チラッと見たら、机の上に飲み物がなかったことに気付いたから見てみぬふりはできない。 きっと遅くまで仕事をするつもりだろうし。 コンコンコンとノックして…。 「はい。」 「市瀬です。」 そう言いながら入れば案の定不機嫌な顔をされる。 「……まだ何かあるの?」 「えぇ、これを。」 先程入れたばかりの珈琲を見せても不機嫌は変わらないようで。 それどころかますます不機嫌になったような。 「頼んだ覚えはないけれど。」 「まだ長引きそうでしたので。見たところ外出から戻ってきてそこまで時間も立っていない様子。」 「……。」 「それに。」 ここでわざと速水さんから見えないように隠していたもう一つ珈琲を見せた。 「自分だけ珈琲入れて、速水さんには入れないなんてできません。お試しでもそんなこと上司にはできませんよ。」 ここに戻るまでに考えた言い分。 自分はまだ残るために珈琲を入れたのに、上司の分なしはありえないということ。 これは実際にそうだ。 上司がいらないと意思表示していれば別だけど、基本的にそうするのが私達の会社では当たり前。 まぁ一言いるかどうか聞くのもありなんだけど、そうすればきっと断られると思ったからわざと聞かなかったのだけれども。
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