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でもまさか……。
「予想外よ…全く…。」
まさか、次長が推している子がよりにもよってあの子だったなんて。
意外というか…納得というか。
「市瀬美桜。」
誰もいない部屋であの子の名前を呟く。
もちろん誰も聞いていない。
でもこの名前を知らない人はきっとほとんどいないと思う。
入社5年目にして秘書課の若きエースとして多くから期待が寄せられている上にあの容姿に愛想の良さ。
彼女に心を奪われている人は数知れず。
なんせ噂が早いこの会社。
ヒソヒソと話すものだから私の耳にも入るし、彼女が通れば誰もが一度は見るくらい。
でも彼女にアタックしてる人は少ない。
それはなぜかは……知らない。
でも多分彼女の仕事ぶりかもしれない。
食事に誘っても仕事量の多さから断ることがほとんどらしい。
他にも金持ちの彼氏がいるだの、幼馴染みといい関係だとか噂が尽きない。
実にくだらない話。
噂している暇があれば仕事すればいい。
事実か知りたいなら聞けばいい。
そもそもそんな噂ができる想像力を仕事に回せないのかしら?
「なんて…私も人のこと言えないわね…。」
今日1日。
どれだけ顔に出さないようにと苦労していたか。
朝に次長の部屋に入れば、すでに市瀬さんがいて。
昨日の今日だからその時に予感したけれど、まさか本当にずっと遠くから見ていた子が、気になっている子が、私の秘書に推薦されたなんて…。
どれだけ嬉しかったことか。
どれだけ辛かったことか。
きっと私しか知らない。
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