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「は、速水課長じゃないといけないのかい?代わりに俺が要件を…。」
「すみません、速水さんでないといけないことでして……三田村さん?」
三田村さんが急遽黙り込んだ。
正確には口は開いたまま固まったと言ったほうが正確かもしれない。
「お、お、おはようございます!!速水課長!」
綺麗な角度90度のお辞儀。
曲げすぎだと思う。
三田村さんの反応で私も後ろを振り向けばカバンを持った速水課長がいた。
この様子だと今出勤したみたい。
「おはようございます。速水さん。」
私も課長が言う前に挨拶をする。
もちろんお辞儀角度は15度。
私達秘書はこういった小さな仕草から叩き込まれているので、完璧にできる自信がある。
「おはよう。」
「で、では仕事に戻ります…。」
すごい、いつも自信たっぷりの三田村さんが小さく見える。
これだけでも営業課の上下関係がはっきりと分かる。速水さんが来たことによって周りの空気が先程よりもピリっとしたもの。
「三田村。」
「は、はい!」
「今進めている案件の進捗は?」
「え、えっと6割ほどでして…今月末にはなんとか形にできそうでして…。」
今月はまだ半分以上ある。
それで6割ほどは多分いい方なんだろうな。
でも……足りない。
「そう。」
「えっと、課長?」
「もう戻っていい。市瀬さん、ちょうど良かった。私も要件があったから。」
進捗を聞いた速水さんは素っ気なかった。
三田村さんは戸惑いを見せてから少し不機嫌になりながら戻っていく。
そんな様子を誰も何も言わない。
ただ私はこれが営業課の日常だと分かってしまった。
一見、みんな各々仕事をしている風に見えるけれどもあまり集中できてないように思える。
一部始終見ていた彼らの目に呆れを表していたから。
秘書たる者、相手の反応には敏感に。
これは我が秘書課トップの由美さんからの教え。
特に表情や視線は自分の無意識が表れやすい。
そう教えてもらっているから私はよく観察するようにしている。
そのため私は彼らの表情を見える限り見ていた。
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