268人が本棚に入れています
本棚に追加
/61ページ
「全く…。」
そんなことを考えていると、頭を撫でられる。
反射的に由美さんを見れば、ものすごく慈愛に満ちた顔をしていた。
「何でもなくないでしょ。美桜ちゃんが新人のとき、BIとして傍にいたのは誰だったのか忘れたの?」
「それは…。」
BIとは、ビジネスインストラクターのことで所謂指導員である。
入社して一年半はBIにマンツーマンでみっちりと仕込まれるのが原則。
当然それは私や巴も例外ではない。
「忘れるわけないじゃないですか。私のBIは由美さんでしょ。」
そう。
私が新人のときのBIが由美さんだった。
その頃はまだ社長秘書ではなかったため、新人育成もしていた。
まぁ直後抜擢されて今に至るわけなんだけど。
「なら隠せてないことくらい分かるよね?」
う……。
確かにそのとおりなんだけど。
「美桜ちゃんは近々とても大きな仕事に就くでしょう。まぁその準備がうまいこといってないことくらい察してはいるんだけどね。」
「でしたらわざわざ聞かないで下さいよ…。」
「えー、やだ。」
「なんでですか。声に出したら余計気にしちゃうんですけど。」
そこまで言って、私はとても後悔した。
しまったと本気で思った。
「だってー。美桜ちゃんの悔しいけど認めたくないっていうその顔が見たいんだもん。」
しばらく忘れていた。
この人、とてつもないドSだった!!!
「普段かわいい上に澄ましてる高嶺の花が、悔しそうに噛み締めてる顔……最高じゃない。そしてそんな美桜ちゃんを私が慰めて依存させて私なしでは生きていけないように…。」
「心の怖い声まで洩れてますってば。」
「あら、つい。」
最初のコメントを投稿しよう!