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ふらふらと歩いて、割れた窓ガラスの前にうみは仁王立ちした。ぶるぶる震える足を、太ももを叩いて踏ん張って、ごしごし涙をぬぐう。
「怪獣、きちゃったかあ……」
「うみ、危ないからこっちきなって!」
りくはうみに手を伸ばすけれど、うみは振り向いて悲し気に笑う。
「りくちゃん、私ね、ずっと伝えたいことがあって」
「あとで聞くから、逃げよ、ね!」
うみ、ふるふると首をふる。窓の外を、のそのそと黒い影が通る。うろこみたいな肌。するどい牙と舌が、映画ならいいのに、現実感がまるでないのに、吹き込む生臭い風は本物だ。
巨大な影。特撮みたいな怪獣。その前で、場違いに悲し気に笑う幼馴染。
「幼稚園からずっと一緒で、ずっと守ってくれたよね。たかしくんに三つ編み引っ張られた時も、小学校の給食のこしたときも、遠足で迷子になったときも、中学入って先輩からいじめられた時も……」
怪獣の振り上げた手が振り下ろされる。隣の教室が壊れて壁が無くなる。見通しが良くなって、坂の上の校舎で、晴れ渡る平野が見えた。運動場にいる巨大な怪獣。
「守ってもらってばっかり……今度は、わたしが守る番」
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