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「これが、恋に落ちるってことなら……」
湯船のかたい側面を撫でる。浴槽にもたれかかる。口だけ湯につけてぶくぶくと息を吐く。
「あの大きい方だけをスキ、とか、最低じゃん……」
りくは、お湯にもう一度潜る。
大雨の中に立つ大きな、全体像も見えない姿を、あの口内を、振動と圧迫を、りくは思い出す。
あの快感が、恋ならば。恋をした。恋に落ちた。
恋は、あったかくて、揺れて、足場のない、やわらかさとかたさの圧迫。胸とお腹のきゅんきゅん。
「明日やすみで、ほんとによかった……」
ずっと大事な友達を守ってきた。この先もずっと友達として守っていくだろう。それは変わりない、変わりたくない、でも。
「休校あけたら、どうしよう……」
ぶくぶくと湯船につかる。
怪獣なんてどうでも良かった。壊れた校舎も、いつから学校が再開するだとか、学校のみんなもどうでも良い。うみがなんで大きくなれるかもどうだっていい。
ただ、あの大きな存在にもう一度会いたい。会えるならば、なんだっていい。口の中で守られる、あの感覚を味わいたい。
りくの頭の中は、それしかなくて、それしかない自分にも罪悪感。
「スキ、とか、最悪……」
天井からぽたりとしずくが落ちる。
上を仰いで目をつぶっても、ぼうっとのぼせる頭の中には、あの大きな瞳と泣きほくろが焼き付いて離れないのだ。
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