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顔を上げると、割れた窓ガラスの向こうに赤い口腔と、鋭く大きな牙が見える。うろこみたいなざらざらした肌。特撮でみたような、これは、怪獣?
「逃げなきゃ……うみ、立てる?」
危ない時、とっさの時、すぐに動くのはいつもりくだった。今だって同じように腕の中のうみに話しかける。しゃがんだふたりの腰元で、おそろいのくまがぶらりと揺れる。
「うん。りくちゃんは?」
「へーき。行こ、逃げよ!」
うみが涙目なのを見てりくは強気な声を出す。うみのみつあみが片方ほどけている。
「だいじょうぶ、うみは私が守るよ」
りくは、うみを抱きしめ頭をなでる。
「りくちゃん……」
うみは涙を浮かべて、すがるように、りくのセーラーの胸元に顔をうずめ、ぎゅうっと制服にしわがつくぐらい握って、そうして、立ち上がった。
「がおおおおおお!!!!!!!」
怪獣の咆哮。肌がびりびりと泡立って、りくは思わず目をつむる。振動で崩れる校舎のがれきが、パラパラと頬に痛い。砂のにおい。生臭い、生き物のにおい。
こんなおかしな状況で、しかし、うみは何を思ったのか、ふらふらと壊れた窓の方に向かった。本来運動場があって開けているそこは、今は怪獣のぎらりとした瞳があるのに。
「ちょっと、うみ!?」
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