ふりそそげ、ラブメテオ

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僕の恋人はいつだって唐突かつワガママだ。 なんでそんなのと4年も5年も付き合ってるんだって? 要求をクリアした時の爽快さと満足感がたまらないからだよ。 で、今日は流星群が見たいと言い出した。 特別な日だから、特別なのがいいって。 あのね、配信サービスのなかから見たい映画を探すのと違うの。 アレはお空の都合なの? わかる? わっかんないよねー。 大体君、夜は熟睡しちゃって外で空なんか見てられないでしょ。 だから僕は恋人のために頭をひねる。 よし、これだ。 ま四角のスポンジに紺色という奇天烈な色のクリームを塗る。 その真ん中に僕と恋人を模した小さなマジパン人形。 はい、これで夜空の下に佇む僕たちの出来上がりだ。 「なあに、これ?」 「これからここに、君と僕で流星群を降らせます」 僕が小さなボウルにいれて差し出したのは、色とりどりの金平糖。 「思う存分に、星を降らせたまえ」 とボウルを差し出すと、恋人は目をキラキラさせながら、金平糖をクリームの大地に落としていく。 「星はいくつ流れた?」 「今ねえ…ろっこ! 次は黄色のお星さまだよ」 ヒューンと擬音をつけながら、愛らしい指先につままれた金平糖は、ケーキの上をぐるぐると回る。 おいおい、流れ星はそんな軌道にならないだろ、と内心ツッコミながら、楽しそうな恋人を見つめる。 ああ、君は本当にかわいいな。 世界で一番の僕の恋人だ。 君のお願いなら、できる限り叶えてあげたいよ。 特にこんな日は。 「星、いっぱい降らせた?」 「うん、見て!」 クリームの上に無軌道に散らばる、色とりどりの金平糖。 考えるだけで甘そうだ。 ああ、でもいつか本当に真夜中の夜空を見上げて、星が降る様を君は見られるだろう、君が望むなら。 でもそんなロマンチックな夜、隣にいるのはきっと僕じゃない。 「よし、これで完成だな。ハッピーバースデー、コータ」 「うんっ、ありがとう、ママ!」 満面の笑顔を浮かべて、僕に飛び付いてくる、僕の恋人、僕の最愛の人、息子のコータ。 そう、僕は君の願いは出きる限り叶えてあげたい、ごく平凡な、でもちょっとだけ優秀なママなのだよ。
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