Mirror――

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Mirror――

 私がそれを見つめるとき、あなたもまた私を見つめている。  毎日の生活において、それは欠かすことができないものの一つと言えるだろう。  朝起きて顔を洗う、歯を磨いて髪の毛をセットする、出勤前のメイクアップに、出がけの玄関での最終チェック。いつだって鏡が欠かせない。  だから、もし鏡が無かったらと思うとゾッとする。だって、そうなると私は今の様に気軽には自分の顔を見ることができなくなってしまうのだから。  部屋を出ても、鏡はそこここに存在する。  住宅街のT字路のカーブミラー。駐車場に止まる自動車のサイドミラー。電車の券売機に、銀行のATM。探せばそこら中に存在する。  それに、例えばそれが鏡として作られたものでなくとも、何かが映り込み反射するのであれば、それは鏡になりえるのだ。  黒い車、磨きこまれた金属のパネル、店頭のショーケースのガラスに、水たまり。どれもがこの世界を映し込み、反射しては逆さまの世界を映し出す。  誰しもがきっと、子供の時に想像したことがあるのではないかと思う。もし、鏡の中の世界に行くことができたら、と。もちろん実際には鏡の国なんて存在しないし、仮にあったとしても、きっと私ではアリスの様な大冒険はできないだろう。  それでもしかし、想像は尽きない。その国は、果たしてどんな世界なのだろうかと。  全てがあべこべで、だけどもまるで生命が存在しない世界?  いやいやあべこべな上に、生き物までもが綺麗に左右反転した世界?  はたまた既知の事象そのもの迄もが反転したディストピア?  小説に映画、舞台に音楽、漫画まで。その世界を描いた作品は数あれども、そのどれもに同じものはなくて、だからこそ全てが間違いであり、また同時に正解でもあるのだろう。  今日も私は電車に揺られ、職場からの帰路につく。  流れていく車窓は夕暮れから夜へと染まり、そこを彩る街の灯が途切れては、その度に車内を、そこに立つ私を映している。  鏡の国があったとして、私はそこに行ってみたいだろうか? 明確な答えは持っていない私だが、少なくともその問いに「はい」と即断できない程度には大人になってしまった。  そんな私ではあるが、訊ねてみたいことはある。 「私がそれを見つめるとき、あなたもまた私を見つめているの?」
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