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2 招かれざる客 12:40
その時俺は、台所で立ちながら昼食を食べていた。電子レンジで加熱するだけで調理ができるシリコン製の容器でパスタを作り、少し焦りながら麺を啜る。
普段は隣の洋間にあるローテーブルで食事をするのだが、13時の来客の予定に間に合わせるため、余裕を持った食事をすることができず、加えて、食べ終わってすぐに容器や食器を洗うことができるという効率を優先させた結果、電子レンジで調理をしてそのまま台所で食べることにしたのである。
最後の一口を口にほおばったところで、シンクの上に置いたスマホのディスプレイに、新規メッセージの通知が表示されたことに気付く。すぐに画面をタップし、確認してみると、カホからのメッセージだった。
カホは、本名を三浦夏帆といい、大学で同じサークルに属していた後輩であり、そして俺が現在付き合っている彼女である。俺が卒業も間近の頃、カホは二回生の途中からサークルに参加するようになり、新入生の時から所属してないハンデを埋めるために、色々と指南していたことが互いの距離を縮めるきっかけとなり、交際に至った次第である。
そしてまさに13時に訪れる予定の来客とは、カホのことであり、今日が初めて、俺の部屋に来る日であったので、そういうわけで落ち着きのない昼食をしていたのである。
口に含んだパスタを、お茶で流し込んでから、アプリを開いてカホからのメッセージを確認する。
〈今駅に着きました。今から遼平君の部屋に向かいます〉
メッセージを読んで、思わず口角が上がってしまう。
今日はどんな服装だろうか、髪型はどんなだろうか、などといろいろ想像してしまう自分を抑えながら、右手にフォークを持っていたので、左手で文字を打ち、返信した。
〈了解。マンションの玄関に着いたら、イヤホン鳴らして。番号は505〉
と、ここで、画面に表示された文字を見て、誤字を送信したことに気付いた。一瞬ヒヤッとしながら、すかさず連続してメッセージを送る。
〈ごめん、五時です。イヤホンじゃなくて、インターホン〉
しかし慌てて入力したので、送信した後に、また誤字をしてしまったことに気付く。今度は訂正する前に、カホからメッセージが届く。
〈誤字、かな?笑 遼平君緊張してるの?笑〉
失敗を繰り返してしまい、思わず胸が苦々しくなる。見られたくない相手に限って、醜態をさらしてしまい、さらに繰り返してしまった自分を恨めしく思った。
そこへ、カホから新たにメッセージが送られてくる。
〈といいつつ、私も少し緊張してる…噛み噛みだったらゴメンね笑〉
茶化しつつも、フォローを入れてくれるカホのメッセージに、落ち込みかけていた俺は、再び口角を上げる。何とも言えない気持ちに高揚しつつ、お礼のメッセージを送信した後、急いで洗い物を済ませ、俺はカホを迎え入れる最後の確認作業に入った。
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