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EP1.END LINE/
...鏡
薄暗いコンクリートの壁に付けられた壊れかけの鏡に、無造作に設置された洗面台。水が滴り落ちるほど古い蛇口。
そして
私。
遠くで聞こえる銃声が、この地が戦地であることを私に強制的に宣言する。
鏡に映った私は疲れ切った表情をしてはいるが、弱みを見せないようにと鏡越しの自分に向けて銃を突きつける。
ーもう朝よ。起きなさいよ
***
/旧中央區において行われている対戦は犠牲者を増やすだけの戦況となっています。魔法の利用を推薦する「side X」と政府軍による攻防は水平線をたどっています。 一般市民の方に置かれましては引き続き不要不急の外出は控えて安全な建物内にて生存活動を行ってください。本テレビ局では最新情報をお伝えします/
暗い部屋の中でモニタの光と仄かにオレンジな照明が光る指令室において私は、戦況が改善されない状況がとても不快だった。テレビモニターで見る報道では戦線の前線の光景が映し出されている。精神保護法の為にモザイクが画面の大半を占めているものの確実にその先では多くの死者がでている。
武器商人でもない私はそう急にでもこの状況を改善したくて仕方がない。こんな日常が当たり前なわけが無いからだ。
本当なら、友人と服を買い おしゃれなカフェで食事をして、電車に揺られて帰るのが私の日常だったのに。
ーいつまで続くのかしらね。終わらせたいのだけど
思わずそう口に出してしまう私だったがこの部屋にいる兵士たちは聞く耳すら持たずにいる。
***
勤務時間が終わり一人で都市部の街へと私は来ていた。地下街の一角にあるレトロなカフェに入ると私は戦争が始まる5年前の光景がフラッシュバックする。その時も今日のように、メロンソーダと餡バタートースト、ポテトサラダを頼んでいた。
子供の頃に戻ったように純粋でいられる時間が私は好きだった。
「これはこれは 凪葉指揮官ではありませんかぁ」
甲高い声で話しかけてくる彼に私は内心イラつきながらも澄ました顔で挨拶をする。
「わざわざ私服に着替えてまで来るのでありますかぁ 我々のように兵士の装いで歩けばよいではありませんか。市民は感謝と言ってあなたを褒めたたえますよ」
彼の声に周りの客や店員が私たちを睨む。至極当然である。戦争が起こって得をするのは一部だけだ。災害とは違って人が引き起こすこの事態によって悪影響を受けるのは同じく人なのだ。
だからこそ、私たちがあまり歓迎されないことぐらいわかっている。故に私服で来ていたというのに彼の発言によって水泡に帰してしまった。
「ではぁ 我々はディナーを堪能しますので さようなら」
静寂が戻った私の席だったが店員が冷たく私に言う。
<今までありがとうございました>と。
その日のメニューは少し塩味が強く感じた。涙が流れたからだろうか。
唯一と言ってもいい楽しみが奪われたのだから当然だろう。
***
店を出て振り返ると、店内には笑顔があふれていた。私の感情とは影と明のように反対でいる。
地上へ出ると遠くで光るオレンジの雲に衝撃波そして後を追うように聞こえる爆音。
私の方へと走る人々。聞こえてくるのは逃げろというネガティブな言葉ばかりだった。
そして大勢が通り過ぎたその先には銃を構えた兵士が私の方を向いて構える。
ー...
刹那。
熱い感覚が全身を巡ったまま私は倒れた。冷めていく体温を感じながらも見える視界からは兵士たちが私を踏み越えていくことが見えるだけだった。
LOST//ここより先の記憶データは存在しません。
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