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第零園 月が落ちてきた
しっとりとした涼しい風の吹く夜、買い物に出ようとすると自転車のチェーンが壊れていた。
「今日も星が見えませんなあ……」
わたしは独りごちて歩き出す。夕飯はコンビニで済ませよう。
途中、寄り道をして公園のアジサイでも見ることにした。
重たげな曇り空の下、ぽつぽつと咲くアジサイの青さは、わたしには少し眩しすぎた。
「あの」
声に振り返ると浴衣の青年が立っている。近くで祭りでもやっているのだろうか。
「どうかしました?」
「この近くに、焼き鳥屋さんはありますか」
突然の謎の質問に返答を迷っていると、彼も自分の質問の違和感を自覚したらしく、赤面して、しかしなおも続けた。
「どうしても食べたくて」
よくわからん。最近はこういうナンパが流行っているのか?あるいは罰ゲームか何かで、どこかに友達が隠れているのかもしれない、と見回してみたがどうもそんな風ではない。
「ちょっと待ってね」
わたしは携帯電話を取り出して検索してみることにした。
このときには既に、わたしは彼と焼き鳥を食べたいと思っていた。
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