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お通しにはひじきの煮物が出てきた。
王子さまはしげしげと器の中身を眺め、ひと息にかき込むと、無言でちびちびとお酒を呑みはじめた。
「何頼もっか?」
わたしがそう尋ねても、お酒を舐めながら、
「うーん」
と唸るだけで、品書きを見ようともしない。
ああ、これはもう、出る気満々だな、と気付いたわたしは、それ以上彼に何かを尋ねるのはやめた。
「すみませーん」
王子さまがもう何も注文しないのは構わない。がしかし、わたしは腹ぺこだ。揚げ出し豆腐くらいは食べてから次のお店を探したい。
二、三度呼んでようやく来た店員さんは少し調子が悪そうだった。
「ごめんなさい、ちょっとぼーっとしちゃって」
「大丈夫です、揚げ出し豆腐ありますか?」
「……ごめんなさい、今日ちょっと切らしてて……」
変な間があったあと、店員さんがまた口を開いた。
「実は最近、店長が辞めてしまっててんてこ舞いなんです。ごめんなさい、これ、ドリンクチケットです。よかったらまた食べに来てください」
そういうことならば致し方あるまい。
わたしは空腹を棚上げして会計を済ませた。
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