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空きっ腹に半合ほど呑んでしまったので、そこそこ酔ってきた。
一方の王子さまは、お酒に満足したのか、楽しげだった。
もう新しいお店を探す気力はなかったので、商店街の端にあるあの居酒屋「桐生」へ行くことにした。
暖簾をくぐり、扉を開くとすぐさま
「いらっしゃあい。お、赤二名さん!今日は顔もちょっぴり赤いですにゃ?」
と今宵も明るいユリさん。桐生さんは一瞬手を止めてちらりとこちらを見て、すぐにトントンと野菜を刻み始めた。
「暑かったでしょう?今日のお通しは冷奴でーす」
つるりとさっぱり絹ごし豆腐、とろりとしたタレにネギ・ショウガ、火照ったカラダを調度良い具合に冷やしてくれた。
ホッと息を吐くと隣で王子さまがにこにこしながら、
「揚げ出しの日じゃなかったね」
と耳打ちしてきた。(ちょっとくすぐったかった)
お通しの小皿を片付けながらユリさんが、
「飲み物はどうしますう?とりあえずレモンサワーとか、自家製のがありますよん」
と勧めてくれたのでそれに従った。
倉庫らしきスペースに姿を消したユリさんはすぐに、立派なガラス瓶に入ったレモン焼酎を持って戻ってきた。
「これはわたしのお手製レモンサワーなのだよ」
鼻高々に自分でハードルを上げたユリさんだったけれども、その期待を裏切らない美味しさだった。爽やかな酸味とほのかな甘味、喉越し弾ける強炭酸。全てのバランスがカラダに沁みわたる心地よさだった。
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