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「今日はカワハギの良いのが入ったんだ」
注文するまでもなくトン、とお刺身が出てきた。
カワハギの姿盛り、肝醤油までついていて、薬味やら何やらたくさんある。
「骨はあとで汁にするから」
感心しているとユリさんがひょっこり顔を出して、
「あのあとねえ、こんなの買ったんだあ」
と赤いグリルを出してきた。
「じゃじゃーん!無煙炭火グリル!まあ屋外用だからあんまり関係ないんだけどにゃあ」
「ユリちゃん、浮かれすぎ」
「ほほーい」
桐生さんの嗜めを飄々と躱したユリさんはまた奥へ退散した。
「悪いね、ゆっくり食べてくれ」
渋い口調でそう呟くと、桐生さんはまた背を向けて作業に戻る。
ひんやりと引き締まったお刺身は歯応えがよく、噛むほどにとろりと舌の上に広がる肝の濃ゆい旨味と混ざり合って、得も言われぬ美味しさだった。
これはもう、日本酒だろう、と横を向くと、ユリさんがそわそわとこちらを窺いながらお酒の支度をしていた。桐生さんがちらっと睨みを利かせたが、その口元は少し笑っていた。
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