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わたしの前にコトリ、とビールジョッキが置かれた。
「お先、ビールお持ちしました。おにいさんは、なににしますか?」
チーフらしき彼は空気を悪くした我々にも(わたしは悪くないけれど!)丁寧に接してくれた。
「何もいらない」
問題を起こした張本人は相手の方も向かずにそう告げた。大将がちらりとこちらを睨む。
「お茶を」
わたしが少し苛立ちながら注文すると、チーフはそそくさと飲み物を取りに行った。
ジョッキに手をかけるとわたしは勢いよく七割ほどビールを呷った。
別に乾杯をして楽しく飲むような状況でもあるまいし、いまさら我々が楽しく飲み始めでもしたらそれはそれで周囲から冷たい視線を浴びそうだ。
ダンッ
とジョッキをテーブルに打ちつける。
彼が一瞬、びくりとする。
「キミ、どういうつもりなの?」
「え」
「キミが焼き鳥屋を教えろって言うから、わざわざ調べて来たんじゃない。初対面よ?見ず知らずの」
彼はあわあわと口ごもる。
「それが何?入って早々嫌だって」
「わたしはちゃんと、評価まで確認して良いお店を選んだのよ?」
「で、でも」
「何が不満なの?」
会話が止まるのを待っていた店員さんがすすっとお茶を置いて逃げていった。
彼は両手で湯呑みを包むように持ち、ひと呼吸してから呟いた。
それまで柔らかかった目元がきりっと鋭い光を湛えている。
「キミは」
「ここで食べたことがあるの?」
突然の質問と表情に少したじろぎつつ答える。
「……ないけど」
「じゃあ、誰か友だちが教えてくれたの?」
「ネ、ネットで評判だったから……」
なぜかわたしが責められているようだ。
「その人のことは知っているの?」
「知らないわよ。でもみんなが美味しいって言ってるの」
「どうして、知らない人の’おいしい’を信じられるの?」
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