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しまった、吸い込まれるように入店したので、何の店か気にもしていなかった。
慌てる三人をよそに、朴訥とした板さんが串を手に取りながら、はじめて口を開いた。
「ちょっと待ってな、ユリちゃん、七輪取ってきてー」
「あいよー」
おねえさんは月面を跳ねる宇宙飛行士みたいに軽やかにどこかへ消えていった。
「つなぎだ、食っときな」
板さんは空いた小鉢を片付けながらさっと次の一品を出してくれた。
タコとわかめの酢の物だ。
ひと口食べると、先ほどまでのアスパラの甘みと胡麻だれのこってりとした余韻がさっぱりと洗われていく。
板さんはわたしたちに背を向けて焼き鳥の仕込みに入ったが、美味に感極まっているわたしたちの声にならない声を察したのか、その背中は鼻高々といった様子だった。
舌鼓を打っているとユリさんが七輪を持ってきてわたしたちの間に置いた。
板さんが窓を開け、ユリさんが入り口の扉を開けに行く。
「炭、入れるよー」
のんびりとした時間が流れる。
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