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タイラは恩師でもあるサトー博士に深々と頭を下げた。
大気が澄みきった真冬の、星降る夜のことだ。
「……という次第で、お嬢さんとお付き合いしています」
彼は左隣に座る、カエデと顔を見合わせた。
「カエデさんと結婚したいのです」
サトー博士は顔を赤くして、目を吊り上げた。
「だめだ、だめだだめだ。娘はやらん」
「何を言ってるの、タイラ君は『ください』なんて言ってない。私もだけど、結婚したい、とお互いが思ってるの。ふたりで一緒に暮らしたいのよ」
「何が違う! わしは認めん」
娘のカエデがほほを脹らませる。
タイラは両手で膝をつかむと、背筋を伸ばした。
「カエデさんは誰のものでもありません。いくら父親といえど、博士からもらったり、許しをいただいたりするのは、おかしいじゃないですか」
「おかしいだと。わしがか? この天才が、おかしいと言うのか」
サトー博士の首から上は、今や茹でたタコのように赤かった。
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