仮定:「人類は自らの滅亡を望んでいる」を証明せよ

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カエデが音を立てて息を吐き、おもむろに顔を上げた。 口を開くと、いつもの彼女よりも低い音程で父親に語りかける。 「パパ、約束を忘れたの」 「忘れただと、誰が? この天才のサトー・ビイトがか。たとえお前でも……」 「ママとの約束でしょ。私が結婚するときには、笑顔で祝福してくれるって」 カエデの言葉には(あらが)いがたい凄みがあった。 声を大きくしたわけではない。 死別した母親との約束を、父親が守らないことへの怒りが力を与えているのだ。 いつもの博士なら、娘の口にした言葉に抗えないはずだった。 「わしはカエデの頼みと、妻との約束だけは、いつだって守ってきた」 頭をかきむしって、「だが」と声を張り上げる。 「このタイラという、能なしで脳みそなしの恩知らずが相手では、話が別だ。可愛い娘がこんなチンピラのこそ泥に騙されているのを放っておいたら、天国へ行って妻に合わせる顔がない」 極度に興奮したときの癖で、口の両端から泡を飛ばし、(ども)りながら(わめ)き立てた。
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