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タイラとカエデは顔色ひとつ変えず、博士の罵詈雑言を真正面から受け止めている。
ふたりとも、サトー・ビイトという人物を知り尽くしていたのだ。
呼吸が続かなくなり、言葉が途切れた。
台風の目に入ったと見て、カエデが口をはさんだ。
「パパ、タイラさんに失礼でしょう。彼の悪口を言うなら、私にも言いなさいよ」
タイラはすかさず彼女をかばった。
「カエデさんを悪く言わないでください。私の悪口で先生の気が済むのでしたら、いくらでも仰っていただいて結構です」
サトー博士は自分の非を認めざるを得ない状況に置かれていた。
もし逆の立場だったら、博士は彼女の父親に殴りかかっていただろう。
じっと堪えているだけでも、見上げた精神力である。
タイラが娘の結婚相手として申し分のない男であると、頭では分かっているのだ。
「だから何だ。わしは認めん、認めんぞ」
博士は席を立ち、足をもつれさせながら自分の文机へ向かった。
「カエデを誰かにやるくらいならな、この世の終わりを迎えた方がましだ」
「パパ! なにをする気なの」
ふたりが慌てて椅子を引くと、サトー博士は、「そのまま!」と手で制した。
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