星の降る丘

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 ハスターは旧支配者と敵対する〝旧神(エルダーゴッド)〟なる古き神々によってヒアデス星団にある古代都市カルコサ近くの〝黒きハリ湖〟に幽閉されており、その封印を解くためには『ネクロノミコン』に記された禁断の知識が必要ったのである。  もっとも、エイモスは死後、自身の奇書コレクションと、召喚したハーソンの〝安息所〟になるはずだった屋敷の破壊を遺言執行人のハドン弁護士に依頼しており、その蛮行を反省していた感もなくはないのだが、相続人である甥のポール・タトルはその遺言を無視して禁断の知識を継承し、一時的ではあるものの、ハスターともう一柱、〝クトゥルフ〟という旧支配者の復活を許してしまったらしい。  後日、ランファー博士がポールとハドン弁護士から聞いた話によると、結局、二柱の旧支配者は再び旧神の手によって即座に封印されたらしく、そんな一件もあってか、盗まれた『ネクロノミコン』を返却するのにともない、彼の蔵書コレクションもミスカトニック大学の付属図書館へ寄贈されることになったようだ。  その中には、エイモスが10万ドルで購入したという、同様に旧支配者について記された禁断の魔導書『ルルイエ異本』も含まれているらしい。  日誌に書かれたこの事件のあらましを読んで、さすがに信じるまでには至らなかったものの、非常に強い興味を覚えた私はすぐさま『ネクロノミコン』の閲覧許可を図書館に申請した。  私が宗教哲学専攻だったということもあったし、何より大学図書館長という肩書を持つ人物が、こんな荒唐無稽な話を事実として認識していることに好奇心を刺激されたのである。  それに、ランファー博士の日誌によれば、彼の前任者であるヘンリー・アーミテッジ博士の時にも『ネクロノミコン』の窃盗未遂事件が起きており、それに関連してアーミテッジ博士も、やはり旧支配者にまつわる奇妙な出来事を体験しているようなのだ。  アーミテッジ博士といえば、なぜか図書館の裏にぽつんと建っている墓の主として、学生の間ではけっこう有名な人物だ。  ちなみに調べてみると、プリンストン大学で哲学博士、ジョンズ・ポプキンス大学で文学博士の学位を取得しているというけっこうなインテリであるみたいだが、その事件のことを知った後だと、そこにお墓のある理由もなんとなくわかるような気がする。  この大学図書館の館長が二代にも渡って巻き込まれた『ネクロノミコン』を巡る事件……そのような奇書となれば、ぜひにも拝んでみたいというものである。  ところが、そんな私の閲覧申請は、図書館の受付カウンターで呆気なく一蹴されてしまった。  どうやらタトルの一件以降、警戒したランファー博士が厳しい閲覧制限をかけ、今もってそれが頑なに継承されているらしい……。
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