星の降る丘

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 この生物のことを知った私の脳裏には、ある素晴らしいアイデアが自然と浮かんだ。  当時、ちょうど付き合い始めていた恋人のフランソワは生物学者だったので、彼女を喜ばせるために、この世にも珍しい地球外生命体を誕生日にプレゼントしようという企てだ。  バイアクヘーを呼び寄せる方法は、『ネクロノミコン』やエイモスの蔵書からすでにわかっていたのだが、問題はその召喚の儀式を行うための場所だ。  召喚の場所はどこでもいいというわけではない。やはり、それ相応に準備された、ハスターと所縁(ゆかり)のある場所でなければならない。  まず一番に挙げられるのは、アイルズベリィ街道沿いにかつて存在した、エイモス・タトルがハスターの〝安息所〟として邸宅の地下に掘ったトンネルだ。  しかし、ここは前述したように木っ端微塵に破壊され、今や跡形もなくなっている状況なので、最早、再利用することはかなわない。  これもまた我が母校の人間が絡んでいて驚いたのだが、文学部のアルバート・N・ウィルマースという教授が残した資料によると、バーモンド州の山奥に〝ミ=ゴ〟なるバイアクヘーに似た昆虫型の生物が密かに棲息しており、こいつもハスターの眷属とする説があるようだ。  だが、期待を抱いて他の資料も当たってみたところ、どうやらミ=ゴの名で呼ばれるこの〝ユゴス星人〟は、また別の旧支配者〝ニャルラトホテプ〟と〝シュブ・ニグラス〟の信奉者であるらしく、旧支配者同士は互いに敵対する傾向にあるため、この山もあまり適した場所とはいえない。  近場では、同州内エセックス郡のマニューゼット川の河口にあるインスマスという港町も旧支配者には縁の深い土地であるが、こちらはさらに悪いことにもハスターの宿敵〝クトゥルフ〟に奉仕するカルト教団の巣窟であるため、むしろ選んではいけない立地の代表といえる。  となると、最後に残る選択肢はやはりアーカムから近い距離にある、この旧ダンウィッチ村ということにある。  なぜならば、この村に住んでいた豪農ウィルバー・ウエイトリーこそが、アーミテッジ図書館長の代に『ネクロノミコン』を盗み出そうとし、番犬に噛み殺された人物だからだ。  嘘か真か、このウィルバーと異形の姿をした彼の双子の弟は、ハスターの父親でもあるより高次の旧支配者、存在ではなく〝空虚〟と表現される一にして全なる古い神〝ヨク=ソトース〟と、人間の女性が交接して産まれた混血児であり、その村のラウンド山の頂に残る〝センティネル丘の祭壇〟と呼ばれる環状列石の遺跡は、そのヨグ=ソトースを崇めるために太古の昔より使われてきたものだというのである。
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