星の降る丘

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 父親の旧支配者に関りがあるとなれば、息子のハスターとも相性はよいであろう。  それにここはアイルズベリィ街道を西のミスカトニック川上流へ遡った場所でもあり、件の旧タトル屋敷とは微妙な位置関係にあるともいえる。  以上のことから、私はこのダンウィッチ村の〝センティネル丘の祭壇〟において、バイアクヘーを招く儀式を執り行うことに決めた。  日時はもちろんフランソワの誕生日、夜空に牡牛座ヒアデス星団が上がる時刻だ。  その日、ただ「珍しい動物がいるので見に行こう」とだけ告げ、フランソワを誘ってこの地にやって来た私は、丘の麓に車を止めると、満天の星の下を彼女とともに頂上の遺跡へと向かった。  幸運にも今夜は雲一つなく、〝悪魔の舞踏園〟と呼ばれる周囲の谷間は草一本生えることのない不毛の土地なので、星空を眺めるのにはもってこいのシチュエーションである。  以前、下見に来た時は昼間だったため、なんと殺風景な場所なんだろうという印象を持ったが、その荒涼とした地形が夜には良い方向へと働いている。  また、火山性のガスでも出ていたのか? アーミテッジ博士の資料によれば、かつてはひどい悪臭が立ち込めていたようであるが、今はそれほど強烈ではなく、時折、風に乗って硫黄臭のようなものが鼻腔をかすめるくらいである。  長い年月の間に薄らいだものか? その程度に収まってくれていてよかった。でなければ、せっかくの誕生日デートが台無しである。  丘陵部もやはり草木は生い茂っていないため、登るのに苦労することもなく、私達は頂上の遺跡に到着した。  遺跡とはいっても、古代エジプトのピラミッドのように整然と組み立てられた石造建築物ではなく、円形に立てられた石柱が平たい石を囲むだけの、例えるなら小規模な〝ストーン・ヘンジ〟といったような、そんな素朴な自然石の石組みである。  表向きにはネイティブアメリカンのポクムタック族の埋葬地と云われているが、以前に考古学調査を行ったところ、出土したのはなぜか白人の骨ばかりだったという……。  淡い星明りに照らされる、その石舞台の上にフランソワとともに立ち、私は持参した黄金の蜂蜜酒で彼女と祝杯をあげ、魔法の石の笛を吹き鳴らすと、ラテン語版『ネクロノミコン』に記されていたハスターを讃える呪文を唱える。
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