星の降る丘

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 ランタンの明かりで金色に輝く蜂蜜酒は、エイモス・タトルの蔵書にあったレシピをもとに醸造したもので、召喚儀式に必要な秘薬もその中に混ぜてある。  石笛も同様にエイモスの資料を頼りに作成したものだが、アーミテッジ博士の考察によると、どうやらこの遺跡で土着民が行っていた祭祀にも似たようなものが使われていたらしい。  この儀式を行うに当たり、フランソワには「土地に伝わる、その珍しい動物を呼ぶためのおまじない」だと説明しておいた。肝心なところはぼかしているが、まあ嘘は言っていない。ほぼ真実だ。  その言葉に、おそらくは僕がふざけて大仰にしているとでも思ったのだろう。彼女もノリよくそれに付き合ってくれて、召喚の儀式は滞りなく進んでいった。  そうして、その真意を知る由もないフランソワの傍ら、危険が伴うのでおいそれとは口にできない呪文を幾度か唱え終わったその時、星の瞬く頭上の夜空にその変化は現れた。  ちょうど真正面の天空に煌めく牡牛座ヒアデス星団の方角から、幾筋もの光の線が地上に向かって流れ始めたのである。  それも10や20くらいのものではない……次第にそれは数を増してゆき、いつしか何百…いや千を超えるまでにも達し、これまでに見たどの流星群も比ではない、大スぺクタクルへと発展した。 「うわあ、すごい!」 「……これは……いったい何が起きたんだ……」  壮大な天体ショーに目を輝かせる彼女を横目に、私は最初、何が起きているのかもわからず、ただただ唖然とその美しい夜空の光景を見上げていた。  と、そんな私の脳裏に、唐突にもハスターの声が聞こえてくる。  いや、〝声〟と呼ぶのは正確ではない。いわゆるテレパシーというものだろうか? 直接脳内にかの者の意思が入り込んで来て、それを私の言語野が言葉に変換して認識したと表現する方が適当かもしれない。  ともかくも、そのハスターの声(・・・・・)ははっきりと、私にこう教えてくれた……。 〝我を崇める者よ。望み通り、我が眷属たるバイアクヘーの大群を地球へ送った。彼らは現在、その星に巣くう者どもをすべて滅ぼし、再び地球を我らの支配下へと戻すであろう〟  ……と。
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