わたしの想いと彼女の不安

3/6
前へ
/236ページ
次へ
美優の最寄り駅についた。この駅は、ホームからの上り階段がふたつだけど、上のコンコースでつながって改札がひとつだから、改札のところで待ってたら、絶対会えるはずよね。 すこし広めの、改札出る手前の広いところの壁際に陣取って、流れゆく人波を見ることにした。 それほど大きな駅じゃないから、電車が来るたびに通っていく人は一人一人の顔が識別できるくらいの距離で見ることが出来る。 改札横の壁には、もう日程が過ぎてしまった夏祭りのポスターが、涼し気な浴衣の女性と花火を、誇らしげに押し出していて、なんだか華やかなイベントはもう終わりですよって言われているようで、ちょっと寂しくなった。 「・・・もう会えないかな・・・」 待ち始めて6本目の電車が着いて、乗客が階段から上がってきて、改札の向こうに流れ出ていったのを眺めながらつぶやいた。 途中で、同じ制服や、同じ学校のジャージを着た娘を何人か見かけたけど、そのどれもが美優じゃなかった。 そのたびに緊張して、駆け寄ろうと準備したけど、髪型、顔立ち、背丈・・・大好きな美優じゃなくて、なんどもがっかりした。 「・・・もう・・・あきらめよう・・・」 そうつぶやいて、とぼとぼと階段を降りた。まばらにいる、電車を待つ人たちから少し距離を置いて立つ。夏の夕暮れの、まだあたたかい風が頬を撫でた。 「まもなくぅー電車が参りますぅ・・・黄色い線の内側でぇーお待ちくださいぃぃ」 アナウンスのあと、しばらくして、熱風を巻き込みながらホームに電車が滑り込んできた。 ドアが開く。 降りる人の中に、美優がいないか、まだ探している自分がいた。 ほぼ降りきって、前に並んでいる人たちが、乗り始める。 わたし、帰っちゃうの? もう会うの、あきらめるの? どうするの? このまま誤解されたまま、夜を過ごすの? そう考えたら、やっぱり乗れなくて、数歩あとずさった。 「ドアが閉まりまぁぁすぅ、駆け込み乗車ぁぁ、ご遠慮くださぁいぃ」 アナウンスと同時に電車のドアが閉まった。電車の中から流れ出ていた冷房のひんやりとした空気がさえぎられて、にわかに熱い空気に包まれた。 「わたし・・・なにしてるんだろ・・・」 自分のしていることが、唐突に、無意味に思えて来て、ちょっと自己嫌悪に陥った。 階段に向かう人波がほぼいなくなったところで、ホームの壁際に寄ろうと振り返ると、視界の端に、同じ学校の制服が見えた。その娘は、人がすっかりいなくなったホームで、壁に向かってひとりじっと立ちつくしていた。
/236ページ

最初のコメントを投稿しよう!

123人が本棚に入れています
本棚に追加