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じっと黙ってふたりでベンチに座っていた。
暗がりの中を、足早に通り過ぎていく人影が、公園の向こう側にある道の街頭に照らされて、ゆらゆらと揺れるのをみていた。
その横で美優は、わたしのハンカチを顔に当てて、じっとうつむいていた。
駅からここまで、わたしが手をつないで引っ張ってきた。
途中、公園に行くとは分からずに、家に向かって行ったら、途中とちゅうで美優が握った手を、行きたい方向に引っ張って、誘導してくれた。
結局、住宅街の端にある、ちょっと木の多い公園にあるベンチにふたりで座った。
そっと美優がわたしの肩に頭を寄せてきた。
駅で泣きじゃくった美優に出会った後、わたしは涙の意味は聞かずに、そのまま美優が自分から話すまで、そっとそばにいようと思った。
遠くで電車の音が、カタンカタン、カタンカタンと響く。
静かに呼吸する美優の息遣いが伝わってくる。
「・・・優依」
電車の音が消え、車の騒音も一瞬消えたとき、独り言のように美優がつぶやいた。
「ミサンガ・・・切れちゃったの」
「え?」
「それでね・・・」
「・・・うん」
ゆっくりわたしの肩から頭をあげて、美優は姿勢を正して、空に向かってつぶやいた。
「あたし・・・もう優依といられないんじゃないかって思って・・・」
「えっ?」
「・・・そう思ったら悲しくなって」
「・・・」
ふたたび、遠くで電車の音が、遠雷のように空をおおった。
「・・・でも、優依が来てくれて」
「うん」
「やっぱりいっしょに居たいって」
「・・・うん」
「・・・」
しばらく、また沈黙。
風が木を揺らして、ざぁっという音が髪を揺らした。
「あたし・・・優依に嫌われたくない・・・」
声色に、わずかな涙の予感を感じた。
「・・・嫌いになんてならないわ」
美優が何を気にして、そんなに思いつめたのか、わたしはまだよくわからなかった。ただ、きっかけは、カブ君なのだろうと、想像はできた。
触れ合う肩が、ちょっとだけゆるんだように感じた。
「美優、聞きたいことがあるんでしょ?わたしも、美優には全部出すわ。だから・・・」
「・・・」
美優がほんのちょっと緊張したように感じた。
「だから、何でも聞いて?」
「・・・いいの?」
「ええ」
そこから美優は、ゆっくり言葉を選びながら、中庭で見たこと、聞いたこと、感じたことを、順を追って説明した後、最後に泣きそうになりながら、言った。
「・・・あたし・・・醜いよね・・・優依があたし以外の人と話したりするだけで、心がざわざわするの・・・嫉妬してるの・・・こんな自分・・・気がつきたくなかった」
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